会報誌(DDKだより)

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2008年05月発行 第168号 DDKだより

巻頭言:二つの看板替えが意味するところ


石田 仁


先ごろ初めて、後期高齢者医療制度の保険料が年金から天引きされた。
制度そのものが、「75歳になったら、子どもの扶養から抜けて、これからは自分の年金
から医療費を払いなさい」という、高齢者に自己責任を押し付けるものであるため「年寄りいじめ」と評判が悪かった。おまけに、当初、新保険証が6万3千人の人に届かなかった。混乱の最中、虎の子の年金から保険料が差し引かれたので、再び、怒りの世論が巻き起こった。舛添大臣は記者会見で、制度の趣旨をごまかすのに必死。「長生きをしてもらうための制度」とすりかえた。以後、政府広報は、「後期高齢者医療制度」を「長寿医療制度」と看板替えした。この国の成長を築いたお年寄りに、懐具合を気にせず医者にかからせてあげたい思いはないのだろうか。
来年から新しく裁判員制度が始まる。司法に民意を反映させ、裁判の迅速をはかると言う。プロの裁判官ですら手を焼いているのに、なぜ素人の裁判員が参加すれば、迅速になり、適正な判決が下せるのか、理解に苦しむ。事は急を要する。本年12月末までに、裁判員候補者には通知が届き、辞退理由を尋ねる調査票も同封されるようだ。
問題がいくつかある。1つは、やむを得ない事由による辞退は裁判所のさじ加減となることだ。罰則で強制しているから、指名の通知は「現代の赤紙」とも揶揄される。もう1つは、裁判員6人、裁判官3人の合議は、たった3日間だけで、殺人等の重罪に判決を下すのである。何にも訓練を受けていない素人裁判員が本当に担える仕事なのか、疑問である。死刑判決がでれば、そのトラウマは計り知れず、守秘義務によって家族や友人にも話すことはできない。すでに、新潟弁護士会が延期の決議を挙げており、今後の各地弁護士会や世論の動向に注目したい。
あまりのお粗末さから、鳩山大臣はつい最近、宣伝文句の「裁判員、参上」から「裁判員、誕生」へ、控えめな看板に替えた。
両制度とも、既に実施されているが、「法は法だから」と諦めず、国民のためにならない制度には大いに警鐘をならし、廃止、あるいは延期等再考を求めるべきであろう。