会報誌(DDKだより)
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2010年03月発行 第190号 DDKだより
巻頭言:内部留保考
亀井 賢伍
美徳とされる個人の節約が、マクロ経済にとってマイナス要因になることは以前から言われています。所謂「合成の誤謬」です。個別企業の安定性の証しである大企業の多大な内部留保が日本経済を脆弱にしていると、昨今内外から指摘されています。こちらは、単なる誤謬でなく、雇用者報酬や下請け単価の引き下げという悪徳を伴っている点で重大です。税制、労働法制・公正取引の見直しなど政策対応が必要です。
今回は、経済システムでなく、個別企業の経営問題として、内部留保について考えてみたいと思います。内部留保は、利益の蓄積されたもの(「利益剰余金」ほか)で貸借対照表から算出できます。過去数年乃至もっと長期の成績の累積、いうなれば会社の「歴史」を体現しています。内部留保の厚さは、たしかに銀行の評価、査定上プラスです。債務超過(自己資本のマイナス状態)の対極にあるものです。
しかし、企業の真の底力は人にあります。人材は貸借対照表に載らない立派な財産です。苦楽を共にしながら従業員を育てること、後継者を養成することは、簿外の「内部留保」とみてよいでしょう。創意工夫、意欲、責任感ある従業員こそ企業の競争力の主要な源泉であり、有事に頼りになるのは従業員の自社への愛着と結束力です。思いがけない力を発揮するものです。銀行は財務の定量分析だけでなく、こうした定性面にも眼光を徹して欲しいものです。人間をモノのごとく使い捨てて蓄えた内部留保は、思いのほか脆いものです。
中小企業とくにオーナー企業の場合、社長個人の側に利益を蓄積する例があります。一旦緩急あれば、個人資産を投げ出す覚悟、さらに連帯保証で縛られている制度からみると強ち非難できない面がありますが、これについては別の機会に譲ることとします。