会報誌(DDKだより)

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2010年05月発行 第192号 DDKだより

人事・労務相談:退職勧告に従わなければ、解雇できるか

Q.明らかに他の社員に比べ成績や能力が劣っているので、「このまま自主的に退職しなければ、やむを得ず解雇することになる」という退職の勧告は違法でしょうか。

今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁

A.問答無用の通知、勧告ならば違法ですね。解雇は、客観的に合理的理由があり、社会通念上相当でなければ認められません(労働契約法第16条)。その際の基準となるのが、労働契約書や就業規則の記載例です。書かれた文書として根拠となるからです。とくに、「勤務成績又は業務能率が著しく不良で改善の見込みがなく、他の職にも配置転換できない」等の規定はぜひ備えて欲しいものです。ただ、この規定でも、少し成績が悪く、能力が劣るくらいでは、解雇はできません。会社が、本人への指導改善に力を注いだかどうかが問われるからです。判例も普通解雇理由に該当するだけではなく、誰の目から見ても解雇が当然である場合に限定しているのです。
しかし、中小の事業所では、能力が劣り一向に成績があがらないようなら、いつまでも同一条件で雇い続ける経済的余裕がありません。思い切って新しい戦力に切り替えなければならないこともあります。その場合、労働条件の変更も考えますが、退職の勧奨も採り得る方法です。本事例の「自主的に退職しなければ、やむを得ず解雇する」という勧告は、合理的理由のない解雇と同じであり、簡単には認められません。承諾があったとしても、本人の自由な意思にもとづいているかどうかが問われるのです。もし「強制」ならば、本人の退職の承諾は「強迫」による意思表示となり取り消されてしまいます。
本来の退職勧奨は、できれば、一対一を避け、リラックスした雰囲気と場所で行いたいものです。社員に信頼されている年長の幹部社員に調整役として同席してもらうことも一考して欲しいものです。「君はこういう点がすぐれているじゃないか。こういう仕事を探したらどうだ」という本人の長所を活かす前向きな姿勢で話し合うことが肝心です。