会報誌(DDKだより)

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2011年11月発行 第210号 DDKだより

巻頭言:できない理由を言うのではなく、どうしたらできるか一緒に考えよう


平石 共子

念願かなって佐藤繊維の佐藤正樹社長の話をやっと聞くことができた。本年3月11日午後4時に予定されていた記念講演は東日本大震災の勃発で中止となり、7ヶ月を経て再度の企画だ。すでに様々なメディアで取り上げられているのでご存知の方もいるかもしれない。アメリカ大統領就任式でオバマ夫人が身にまとっていたカーディガン。このニットの糸(極細のモヘア)を作ったのが山形県寒河江市にある佐藤繊維。この一件で一躍有名になったと言う。後日、その話を聞いて、すごい会社があるものだと俄然興味をもったのだ。直に、話を聞いてみたら、業種業態に限らず、経営のヒントをたくさんもらった。
曽祖父が羊を飼い手つむぎで糸を作り、祖父の時代に機械化へ、父はニットの製造業へ。経済成長を経て衰退の時代。黙っていても受注が減る。セーターの99%は輸入、日本製の糸で日本製のニットは0.4%しかない。4代目はどうすればいいのか。
12年前に仕入先であるイタリアのニット糸工場を見学したことが大きな転換点になった。工場で動いている機械を見たらノウハウがわかったという。機械を改造していたのだ。しかし、技術を盗もうという気持ちを思いとどまった。これで真似をしたら最低だなあと、自分たちで機械を改造してゼロから自分たちで考えてモノを作って発信しなければと。
山形の工場に戻ってベテランの技術者に「こんな糸を作りたいんだけれど」と、相談を持ちかける。答えは、できない理由のオンパレード。「できない理由を言うのではなく、どうしたら作れるかを考えてくれ」と。
耳の痛い話と思ったのは私だけではないだろう。できない理由を何度言ってきたか。そして、できない理由を何度聞いてきたことか。
スタッフは3ヵ月後、できあがった糸を勝ち誇ったような顔をして社長のところに持ってきた。佐藤繊維の社員が自分で考えてモノを作る喜びを知った瞬間だった。しかし、その糸が製品化されるまでには5年かかったという。
経営環境を嘆いている場合ではないと感じた。まず、これからどうすればいいのかを考え、実行に移す。肝心なのはできない理由ではなく、「どうしたらできるかを一緒に考えよう」である。