会報誌(DDKだより)
DDK Newsletter
1998年06月発行 第49号 DDKだより
巻頭言:金融自由化の戦後最大の失政
顧問 岩井 義照祝経営研究所所長
近著『どんとこい銀行』
(サンマーク出版)
現在自民党政府と橋本首相が進めている金融の自由化は、戦後最大の失政ではないかと考えます。
一つは金融機関の再編を行うにあたって、驚くことに政府も大蔵省も銀行自身も不良債権の額を把握せずに発足させてしまったことです。現実にはこれが膨大な額であり、各行ともこれを償却して自己資本比率を達成することが不可能だからです。例えば昨年11月北拓が倒産したら驚くことに不良債権が1兆 1千億円もでてきたのです。貸出額6兆 2千億円に対して18%です。全く信じられない数字です。他行も同様で、各行とも今日に至るまで事実上不良債権の額を発表していません。発表できないのが実態でしょう。
今年始め大蔵省は世論に押され、初めて不良債権の総額を76兆円と発表しました。しかし各銀行別の内訳は発表していません。にもかかわらず、今年3月末各行とも不良債権を償却して、自己資本比率を達成したと発表しました。もちろんこんなインチキが世界に通用するはずがありません。ムーディズ等の評価は更に下がり、4月には某都銀で市場からの資金調達ができず、日銀特融が発動されました。
結局各行はかけ値なしの自己資本比率を達成するため、更なる貸し渋りに走るでしょう。本年9月から来年3月にかけて、いっそうの貸し渋りが行われ、貸し渋り倒産が増え、新たな延滞が発生するでしょう。
もう一つの失敗は北拓の倒産では企業の取引銀行がなくなってしまったということです。北洋銀行も中央信託も正常取引先しか引き受けないと公言しています。これは2割しかありません。北拓取引き先約2万社のうち1万6千社の取引銀行がなくなったのです。銀行がなくなればやがて企業は潰れます。1万6千社が倒産の危機にあるのです。今後多発する銀行倒産のなかで、どれほどの企業が連鎖倒産するのか想像もつきません。今の政治のもとでは、金融不安はやがて金融恐慌に、平成不況は平成恐慌に発展する危険があります。大変な失政です。