会報誌(DDKだより)

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2015年12月発行 第259号 DDKだより

巻頭:本業回帰の意味


石田 仁

かつて、結婚式や仏事では、残りを持ち帰れる折詰弁当が当たり前でした。その真ん中には大きな鯛がどーんと。最近は、仕出し弁当屋は消え、ケータリングが手際よく配膳し、残しても持ち帰りはしない。衛生上の問題もあるかもしれません。この仕出し弁当屋で最盛期をきづき、今は地域に愛される鮮魚店として頑張っている社長の話を聞く機会がありました。
 社長はスーパーの鮮魚部門で修業し、独立、お店を立ち上げました。のっけから、「俺は、魚を売るか、油を売るか、特別なことは何にもしていない。魚はスーパーでも、魚屋でも変わらないよ」と。実は、店の周囲の魚屋はすべて廃業し、マンションや駐車場に替わってしまった。近くにスーパーはあるが、独立した魚屋は一軒のみ。それでも、社長はスーパーをライバルとは思っていません。「うちは魚をよく知っている。自分にしかできない惣菜を手作りで並べている。焼き魚、特製の塩辛、鯖の味噌煮、キンピラ、白菜のぬか漬け等どこにも負けない、うちしかできない味だよ」と、魚屋らしいだみ声で勇ましい。鯖の味噌煮に合うのは青森産の脂がのった大型のものと教えてくれました。数は多く作れないが、予約で購入するファンも多い。お年寄りには配達もしています。わざわざ、魚屋に「もう、白菜づけやってますか」と問い合わせてくる若者もいます。
 いつも「本業に回帰せよ」と知ったようなことを言っていた自分が恥ずかしく、社長の話に聞き入った。鮮魚店でも最新の冷凍設備を導入している訳でもないから豊富な品揃えはできない。必然的にたどりついた商売のやり方、惣菜を売ること。スーパーでの修行、仕出し屋の知識と経験、鮮魚店のプライド、地域に愛されること。そして何よりもモノより人を売ること等、いろんな要素がまじり、今の方法にたどりつきました。最近はこの地域でも少人数の世帯や高齢者が多く、ヘルシーな魚を活かした惣菜は人気があります。これまで培った仕出し屋の経験が活きるのもうなずけます。
 単純に、余計なことをしないで本業に回帰すれば経営が復活するような錯覚をすることが多い。最後は、モノより人を売ることこそ、中小のビジネスの基本ではないか。