会報誌(DDKだより)
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2017年02月発行 第273号 DDKだより
巻頭:不確実性の時代に生きる
河原 八洋
年末年始の休みに寄席やテレビで落語を聞かれた方も多いと思います。古典落語に出てくる啖呵で「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」というセリフがあります。宵越しの銭を持たなくても、「安心、安全」で生きられたとすると、今日と比較出来ないほどに相互扶助の仕組みが出来上がっていて、理想的な社会だったのではないかと思います。これは江戸時代を面白おかしく語ってる落語世界の作り話と言うわけではなさそうです。
この時代にキリスト教布教で日本に来たフランシスコ・ザビエルが本国に書き送った書簡で「この国の人々は今まで発見された国民の中で最高であり、日本人より優れた人々は異教徒の中で見付けられないでしょう。彼らは親しみ易く善良で悪意がありません。他の何よりも名誉を重んじます。大部分の人は貧しいのですが、武士もそうではない人々も、貧しいことを不名誉だとは思っていません」と書き送っています。
GNH(国民総幸福量)のブータン王国基準で計ると、世界1だったのではないでしょうか。
昨年6月の英国は国民投票でEU離脱決定、11月8日米国大統領選挙での不動産王トランプ氏の勝利、12月4日憲法改正を掛けたイタリアの国民投票でのレンツイ首相の敗北。この結果2名の指導者が退陣しました。今年はフランス、ドイツでも選挙があり、1993年世界の火薬庫から国境を無くし、通貨を統一し、理想的地域を目指したEUも存亡の瀬戸際に立っています。
新年を迎えてマスコミでは盛んに「不確実性の時代」と言う言葉が行きかっています。1978年米国経済学者ガルブレイスによって書かれたベストセラーの題名です。経済発展で世界の平和を願って毎年進めてきたことが40年前にタイムスリップしたのでしょうか。
自国の利益のため限りある資源を奪い合う大国とその手先の紛争、そこから発生する難民の群れ、自由と民主主義を最大限に追求してきた「輝けるアメリカ」の到達点が、「富裕層上位の1%の富が、下位90%の富の総和を上回る」まで開いてしまう偏った自由度のルール。日本にも同じ傾向があり、先行きを暗くしてます。
そんな中、資本主義とテクノロジーの限界を説いた『文明の構造と人類の幸福』(ユヴアル・ノア・ハラス・イスラエル人著)が世界で270万部のベストセラーに成っています。スケールは違いますが日本でも先月『徳川がつくった先進国日本』(磯田道史著・文芸春秋)が発売に成りました。
宵越しの銭を待たなくてもいい世の中で暮らしたいものです。