会報誌(DDKだより)
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2017年05月発行 第276号 DDKだより
巻頭:ナショナリズムとグローバリズム
青木 正
昨年の英国の欧州連合(EU)からの脱退はとても衝撃的でした。そしてアメリカの大統領選の結果もまたしかり。誰もが “えっ、まさか” と思ったことでしょう。そして、ここにきてにわかに注目されているのがフランスの大統領選です。
つい数年前まで、自国の立ち位置や在り方を世界協調的に考えるグローバリズム的思考が時代のすう勢でしたが、このところ急激に、選挙や投票で自国民の支持を得たいがため、極端にナショナリズムを煽る方向へ一部の主要国が動き出しています。自国第一主義、自国の利益優先、つまり明確なる保護主義的発想に傾き始めました。
なぜこのような状況に!? いままで自由を掲げ、グローバリズムを標榜していた国々が!? それはたぶん、つい十数年前までの新興国、つまり旧東欧、東南アジア、中国の発展速度を見誤ってしまっていたのでしょう。今後近い将来、下手をすると“ 軒を貸して母屋を取られる” 状態になりかねないという懸念を、これ以上座視していられない限界に気が付いたと思われます。
そして他の要因として、英国の友人に聞いたところでは、過去の植民地政策の負の遺産であると言ってました。旧植民地からの移民を受け入れざるを得ないお家事情に苦しんでいると。近年、私たちはメディアやインターネットによって、アフガン、イラクの体制崩壊やアラブの春をほぼリアルタイムで知り、シリア内戦においては、動画でまでその状況を見ることができます。そこには、大けがを負って運ばれる人、街が廃墟になって茫然と立ちすくむ人などが映し出され、心を痛めずに見ることはできません。それは歴史を遡ればオスマン帝国崩壊に乗じて、旧列強3国が中東や北アフリカ地域を勝手に分割統治したことに起因します。その過去の植民地拡大に活路を見出したナショナリズムの負の遺産に加えて、宗教、民族、資源の問題が複雑に絡み合って解決できなくなってしまった事案なのでしょう。
いま、朝鮮半島情勢も過去最大の緊張状態になりつつあります。時として、各国は自ら発する声明や行為が、はからずもその思惑を大きく飛び越えて、想像しえない状況に進展してしまうことを、歴史から学び自覚しなければなりません。各国のナショナリズムとグローバリズム、折り合える落とし処を見つけ出すことは、世界共通の永遠の課題と言えるのではないでしょうか。