会報誌(DDKだより)

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2018年06月発行 第289号 DDKだより

巻頭:とっておきの時間


椎名 敬一

 家の近くに落合川という川が流れています。東京都東久留米市を流れ、市内の湧水を水源とする全長4Kmほどの荒川水系の一級河川です。遊歩道が整備されており、この川沿いを散策するのが私のお気に入りの休日の過ごし方。川幅は広い所で10メートル程度の清流で、四季折々私を楽しませてくれます。
 雛たちが親ガモの後について泳いでいます。上流に進むにつれ周りの緑が次第に濃くなってきます。空は高く、ウグイスの声が雑木林から聞こえ、思わず笑みがこぼれます。行き交う人たちもどこかフレンドリーな感じ。
 水草がたなびく中、浅瀬には小さな魚たちが泳いでいます。子供たちが網を持ち、川遊びをしています。訊くとアブラハヤ、川エビ、ホトケドジョウなどが採れるといいます。時には、その魚たちを狙う真剣な白鷺の姿に出会い、息をひそめて見入ることもあります。
 ジッと対岸を見つめる女性がいます。近づくと、指差す先に青緑色の綺麗な小鳥。カワセミです。アッと思う間に見えなくなりました。こんな美しい鳥が都内で見られるとは思ってもいませんでした。訊くと「もう少し上流でよく会える。」とのこと。早速そのポイントに足を進めました。
 望遠レンズを付けたお爺さんカメラマンが一人、川を見つめています。対岸は湧水地を守る鎮守の森。そこにカワセミの巣があるという。待つこと15分ほど。カワセミが数メートル先の枝にとまりました。一斉にシャッターの音。いつのまにか何人ものカメラマンが大砲のようなカメラを構えています。光沢のあるエメラルドグリーンの背中とオレンジ色の腹部が美しく、丸いフォルムが愛らしい。
 澄んだ水の流れ、キラキラ光る水面、心地よいせせらぎの音。それだけで心が洗われ幸せな気持ちになります。鳥・魚・草木・虫たちの種類もとても多く、奥深い豊かさを感じ、嬉しい気分に浸れるところです。
 こうした川ですが、一時は宅地化が進んだことで緑が急速に姿を消し、水が汚れたことがあったそうです。今では市や市民の力で水は透明度を取戻しています。手を入れすぎない絶妙な自然保護活動の継続は大変なことだと思います。枯損木や落ち葉の手入れ、ゴミ拾いなど多くの作業を市民がボランティア活動として行っているそうです。
 顔を知らないこうした方々の力に敬意と感謝と未来への希望を感じます。