会報誌(DDKだより)

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2019年03月発行 第298号 DDKだより

人事労務相談:就業規則と人事考課規程

Q.当社は、社員が20名で就業規則の届出とその周知は法令通り行っています。ところが、某社員から“人事考課で給与を決定しているのに、人事考課規程は届け出がないから労基法違反ではないか”の指摘を受けました。人事考課規程も就業規則として届け出しなければならないものでしょうか。

今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁

A.結論から、就業規則の一部として届け出た方が良いでしょう。 
 就業規則に記載すべき事項として、「賃金の決定…、計算及び支払の方法」(労基法第89条2号)があります。この「賃金の決定」は、労働条件の明示義務とし、労基法や施行規則にもありますが、具体的に明示されていません。行政は、「賃金の決定とは…賃金額そのもののことではなく、学歴、職歴、年齢等の賃金決定の要素あるいは賃金体系(…)等賃金の決定」と解釈しています(労働基準法下 厚生労働省労働基準局コンメンタール)。
 貴社は、就業規則で、基本給の決定は、「本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する」と、下線部の賃金決定の要素を明らかにしています。従って、形式的には、当該人事考課規程は労基法上、就業規則に必ず記載し、届け出しなければならない事項ではありません。判例も、個別の昇給や昇進に関わる経営の重要な判断要素となる人事考課は、経営側の裁量を認めています。この解釈に立てば、法的には届出は不要です。
 ただ、一部判例では、労働条件対等決定の原則から、必ずしも経営側にフリーハンドを認めていません。当該人事考課規程の法令違反や不利益取り扱いの有無、公平公正な評価制度(制度の開示、公平な評価)かどうか、評価結果の開示等がなされているかにつき、経営の裁量権を制限しています。
 貴社は、就業規則上、賃金の決定に関して、抽象的な賃金決定要素に留めながら、実際には、社員と協力し、人事考課規程手続きによる評価で賃金の決定がなされています。当該規程には、賃金決定という重大な労働条件が記載されています。その意味で就業規則に必ず記載しなければならない事項という見解も成立します。
 いずれの見解に立つにせよ、昇給、昇進あるいは降職、賞与額等の決定に影響する人事考課を実施する場合には、十分な説明が必要です。就業規則の一部として届出の有無にかかわらず、内規としていつでも社員に周知できる状態にしておくことです。