会報誌(DDKだより)
DDK Newsletter
1999年03月発行 第58号 DDKだより
巻頭言:再び貸し渋り助長の危険性
専務理事 石田 仁経営コンサルタント・社会保険労務士
東京都中小企業家同友会理事
同 専門家グループ部会幹事長
東京都労働経済局 労働講座講師
著書『就業規則で会社がかわる』
(労働旬報社)ほか論文多数
金融再生委員会が2月12日、続いていた予備審査を踏まえ、都市銀行など大手15行に対し公的資金による資本注入を認める仮決定を内示した。総額約7兆4,500億円。3月上旬まで続く審査の過程で投入額はさらに膨らむ可能性があるという。昨年11月に各行が表明した申請予定額よりなぜ1兆6,000億円も積み上がったのか。それで金融システム不安が解消され、“貸し渋り”はなくなるのだろうか。
再生委員会は「今3月期で不良債権処理を終わらせ、内外の信頼を回復する」と金融機能の立直しに強い決意を示すが、昨年3月の金融危機管理審査委員会の二の舞(その後の長銀、日債銀の破綻や貸し渋りの強化)を「恐れ」ているようだ。
不採算部門のリストラに消極的な一部銀行に経営健全化計画の数字の甘さを指摘する形で申請額の上積みを迫り、追い打ちをかけるように厳しい引き当て基準を公表した。
他方、大手銀行で唯一、公的資金の申請を見送り、本店売却等で資本増強する東京三菱銀行。経営への行政介入を回避し、「自助努力」で立直しする道を選択した。是非はともかく、公的資金なしに「自助努力」で問題解決にあたる気概も問われている。
公的資金の投入は、日本の金融システムの信頼を回復させることに最大の目的がある。だから、再生委員会は投入に当たって、各行に対し、3月末までに不良債権や株式などの含み損を一括処理し、収益基盤を強化するよう迫っている。「収益力の強化」は、他方で貸し渋りを加速させる危険性をはらむ。資本の増強、収益力強化には、公的資金や自助努力による資本調達に加え、自己資本比率を高める為の“融資回収”の手がある。経営基盤の弱い中小企業からの融資引き上げが最も手っ取り早いからだ。行きすぎれば倒産も引き起こしかねない。
銀行の収益改善と正常な融資業務。この二律背反をどう解決するのか。再生委員会は公的資金注入にあたり「中小企業向け融資実績が前年度を上回るようにしてほしい」と銀行に条件をつけたというが、一向に具体的なものは見えてこない。早急な改善策を望むものだ。