会報誌(DDKだより)

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2021年05月発行 第324号 DDKだより

金融・経営相談:紙の「約束手形」利用廃止?

Q.「国が約束手形の廃止を目指す」との報道がありましたが、長い間の商慣習の大転換で混乱の懸念があります。どんなことが検討されているのでしょうか。

今月の相談員
中小企業診断士
中小企業組合士 伊藤 勝

A.経済産業省では、2026年をめどに約束手形の利用を廃止するよう、産業界や金融業界に対応を求める方針を決定しました。企業間の取引で代金を後払いする際に使われる約束手形について、経産省は今年3月の有識者検討会(「約束手形をはじめとする支払い条件の改善に向けた検討会」)で、今後の方向性を示した報告書をまとめました。その概要は、以下の通りです。参考にしてください。
1.約束手形廃止の背景について
 約束手形は取引先への支払いを猶予してもらい、振出人側の資金繰り負担を軽減する手段として用いられてきました。かつて銀行融資が十分にニーズに応えられなかった時代に銀行融資の代替手段として約束手形は大きな役割を果たしてきましたが、一方で長い支払いサイトを求める取引慣行で取引先に負担(割引料負担や資金負担)を求めると言う弊害も問題視されてきています。そのほか、紙の使用による印刷や郵送、保管コストがかかること、紛失のリスクがあること等から、時代にそぐわない。更に、最近の調査では、手形の受取人の9割、振出人の7割超が約束手形の利用をやめたいとの意向をもっている。以上を踏まえて約束手形の利用を廃止すべきだとしています。
2.約束手形廃止に対する今後の方向性と課題について
(1)支払いサイトの短い「現金振込み」への切り替えを進めるべき。少なくとも「紙」による決済をやめるために、電子的決済手段(電子記録債権等)への切り替えを進めるべき。
(2)代替手段である「電子記録債権(でんさい)」(*)の課題として、<1>中小企業の多くが本システム(でんさいネット)の利用少なく、約束手形利用メリット以上の商品性(利用料金等)、利便性の確保が必要。特に、使い勝手の良いシステムが求められる。
(3)手形をやめて支払いサイトを短縮化するのに、特に中小企業としては、運転資金の調達が必要となるため、公的資金の活用や中小企業にとって使い勝手の良いファクタリングサービスの提供が必要。
 以上が検討会の提言の概要ですが、今後の動向に注視が必要です。

(*)「電子記録債権(でんさい)」とは、
 電子的に記録管理された新たな金銭債権。従来の手形や売掛金が電子化されたもの。
 手形・振込みに代わる新たな決済(支払い)手段として、2013年2月開始。