会報誌(DDKだより)
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2021年06月発行 第325号 DDKだより
巻頭:台湾から見える光
齋藤 正広
新型コロナウイルスの収束に目途が立ちません。カギを握るワクチンも、ネットや電話で予約できない高齢者が大挙して役所に押し寄せるなど、緊急事態に対応しきれない行政の脆さがあらわになっています。
加えて、政治家や官僚、はたまた医師会の会長までもが飲み会やパーティを催していたことが次々に明るみになり、国民の不信は募るばかりです。これでは政府や首長がいくら「不要不急」の外出を控えるよう訴えても、国民の心には響きません。
そのような中、緊急事態宣言やロックダウンといった強制的な制限を使わずに新型コロナウイルスの感染拡大を見事にくい止め、注目を集めているのが台湾です。この原稿を執筆している5月中旬においても、累計の感染者数は1200人、死亡者はわずか12人、1週間の平均感染者数も10人という数字に驚くばかりです。昨年2月に、日本中がマスクの不足と価格の高騰に苦しむ中、台湾では政府と多くの市民ハッカーが協力していち早くマスクマップのアプリを構築し、誰もが安心して効率的に購入できたことが大きな話題となりました。
その立役者ともいえるのが、2016年に台湾史上最年少の35歳で入閣した台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏です。アップルのデジタル顧問も務めたコンピュータの天才です。最新の著書「オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る」(プレジデント社刊)にそのヒントを垣間見ることができます。
「基礎的な知識を持っている人が多いほど、お互いに意見を出し合ったり、対策を考えることができます。少数の人のみが高度な科学的知識を持っているだけの状態では的確な判断は下せません。情報の共有が大切です。」
「トラブルやハプニングに直面した際にすぐに反応して状況を変えていこうとする力が重要です。誰かに強制されなくても主体的に動き、困っている人に積極的に手を差し伸べる。多くの人がそうした力を持つことで、困難な問題も解決に導くことができるのです。大多数の人たちがよければよいとするのではなく、「誰も置き去りにしない」ことが重要です。」
「誰かが違反するだろうなどという先入観を持って強制的なやり方を選択するのはいい方法ではありません。「どのようにすればお互い協力できるのか」ということについて考えるべきなのです。それが政府と人々の重要な信頼の源になるわけで、両者の間に相互信頼があったことが台湾において感染拡大を防いだ最大の理由であったと言っていいと思います。」
テクノロジーは上記の前提があって機能すると言えるのでしょう。マイナンバーの普及やデジタル庁の創設によって簡単に解決できるものではありません。日本でも山梨県のように感染対策に成功している自治体があります。新しい未来のために、私たち自身が主体性をもってこの困難に協力して立ち向かう姿勢が必要なのではないかと感じます。ぜひ、氏の著作もご一読下さい。