会報誌(DDKだより)

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2021年07月発行 第326号 DDKだより

巻頭:VUCAの時代に


椎名 敬一

 「神様、私にお与えください/自分に変えられないものを受け入れる落ち着きを/変えられるものは変えてゆく勇気を/そして、二つのものを見分ける賢さを」
 ご存じの方も多いと思いますが、ラインホールド・ニーバーの詩「平静の祈り」の一節です。会社を引き継いだころに出会った言葉です。私はキリスト教徒ではありませんが、宗教とは無関係に自分のありようを内省する言葉として大事にしてきました。
 また私が専務になったとき、社長(父)から、「事業をしていると、二進も三進もいかなくなる時が必ず一度や二度ある。そんなときは、脇目もふらず、自分の真下を深く深く掘っていくんだ。必ずそこに泉がある。そして掘り進めていると穴の径は自ずと広がってくる。必ず活路が見いだせる。」と聞かされました。私が代を継ぎ30年、この言葉を幾度も噛みしめてきました。

 弊社では、月一回、朝一時間の社内研修会を全従業員対象におこなっています。前月に配られた月刊誌の指定された記事を読み、その感想文を持ち寄って、パートも社員も社長も役職に関係なく一人の人間として参加します。くじ引きで4~5人の小グループに分かれ、その感想文を一人ずつ読み上げます。そしてその発表者の「素晴らしい」と思われるところだけを他のメンバーが発表者に伝えていきます。
 普段は、仕事上の連絡や打合せでしか話さないような相手に対しても、「感謝の気持ち」や「良いところ」を具体的に伝えることから始めます。褒める側も褒められる側も、こそばゆく、気恥ずかしい感じで始まりますが、次第に笑顔や頷く姿があちこちで見られ、拍手や笑い声がそこここから湧き上がってきます。その時間は私にとってうれしい時間です。
 先月のお題は奇しくも「汝の足下を掘れ そこに泉湧く」というニーチェの言葉でした。
 社員の感想文には「コツコツ技術を磨いてゆく。」「できることを精一杯やって、誰かの役に立ちたい。」「相手ではなく自分を変えていく。」などと言う言葉が並んでいて、何とも頼もしい社員達と改めて思いました。
 変えられないものにとらわれず、変えられるものを確実に掘り下げ、変化の次代を乗り越えてゆこうと思っています。