会報誌(DDKだより)

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2021年12月発行 第331号 DDKだより

巻頭:課税事業者にとっても悩ましいインボイス制度


齋藤 正広

 2年後の令和5年10月から導入される消費税のインボイス制度に向けて、インボイス発行事業者の登録受付が今年10月から開始されました。この制度により、売上が年間1千万円以下の事業者に認められている免税事業者が取引から排除されることが懸念されています。学習会等で講師をする中で、この問題は、免税事業者と取引のある課税事業者にとっても悩ましい問題であることを痛感しています。
 まず、インボイス制度は、今までの制度と何が違うのか?消費税は、事業者の売上に係る消費税額から、仕入や経費等(以下「仕入等」といいます。)に係る消費税を控除し、その差額を納税します。これを「仕入税額控除」といいます。インボイス制度最大の特徴は、この仕入税額控除が、登録された事業者が発行したインボイス(請求書、領収書、レシート等)がないとできなくなることです。
 インボイス発行事業者は消費税の課税事業者にしか認められません。これは免税事業者に支払った仕入等については、仕入税額控除ができなくなることを意味します。例えば、免税事業者である協力業者に外注費として55万円支払う場合、現在は5万円を売上に係る消費税から控除し、50万円を外注費として費用計上することになります。制度導入後は、5万円の控除はできず、55万円を外注費として費用計上することとなります。つまり、今まで支払っていた消費税相当分だけ消費税の納税額が増加し、自社の利益が減少することになってしまうのです。
 「免税事業者は消費税を納税していないのだから、その分値引きさせればいいんじゃないか?」そう単純ではありません。免税事業者は納税がない代わりに、仕入税額控除をすることができません。つまり、仕入等で支払った消費税を負担していることになります。売上を10%まるまる値引きされたら、ほとんどの事業者は赤字になってしまうでしょう。免税事業者が課税事業者を選択することも可能ですが、新たな納税と事務負担の発生により事業の継続が困難になることが危惧されます。
 このように現在免税事業者と取引がある場合には、いずれかの側の利益が確実に減少することになります。中小企業では自らも厳しい経営環境にありながら、協力業者との関係を大切にしている経営者が殆どで、大変悩ましい問題です。少なくとも導入後6年間は、免税事業者からの仕入等について一定の控除を認める経過措置が設けられていますので、取引価格を見直す交渉の際は考慮下さい。
 課税事業者の方、免税事業者の方、双方が消費税の仕組み、お互いの立場を理解したうえで対応を検討されることを願ってやみません。