会報誌(DDKだより)

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2022年04月発行 第335号 DDKだより

巻頭:人類の英知が試される


青木 正

 昨年からロシアはクリミア侵攻以降で最大兵力を、ウクライナとの国境に増強させてきたが、最初は反ロシア民主主義政権への圧力誇示であろうともみられていた。1989年のゴルバチョフ・ブッシュ両大統領の東西冷戦終結宣言は、ワルシャワ条約機構解散、ソ連邦終了という劇的な結末を迎えるに至った。ゴルバチョフ、エリツィン大統領と続けて西側に譲歩しながら改革と民主化を進めたが、改革過程の混乱で、強いソ連を生きてきた国民や保守勢力からは、大国の威信を大きく失墜せしめた人との烙印を押され、反動で国民は強い大統領を求めるようになってしまった。
 1970年、私が中学2年時の母校教諭で東大経済学部卒業後、数年の三井物産勤務ののち世界史担当になられた奥村晃作という異色の先生(のちに著名な歌人としてご活躍)がおられた。授業は教科書そっちのけ、歴史上で戦争が勃発した場合、一方の情報だけで沙汰するのではなく、双方の数十年以上前からの時代背景、民族・国民感情の変遷、指導者の生育環境などの時系列的な分析が重要であり、それぞれについて深く、詳細に、解り易く解説して下さった。先生は商社時代にソ連渡航経験があったらしく、当時ソ連ではロックを‘堕落の音楽’、チューインガムを‘堕落の食物’と呼んで厳禁厳罰、我々とはまるで価値観が違うんだよと。1米ドルが360円の固定相場時代、1ルーブルが540円。当時交換レートは金(ゴールド)との対比で決まっていたらしく、ソ連の通貨の方が価値があったようだ。
 米国、EU、北大西洋条約機構(NATO)が、ワルシャワ条約機構解散とソ連崩壊後に、まるでオセロの反転のように旧東欧諸国や一部旧ソ連構成国のNATO加盟を認めてきた。特にNATO加盟希望のウクライナは旧ソ連ナンバー2の中核国、いわばロシアの弟分、かつては軍需産業が基盤で、クリミア不凍軍港という軍事の要衝を有する。
 しかしながら、21世紀の世界各国共栄共存の時代に、侵攻の大義主張をもっても武力で独立国を脅かすことなど絶対にあってはならない。‘いわんや第3次大戦をや’ である。いつの世も戦争で命を落とし、傷つき、日常の平穏な生活を奪われるのは一般市民なのだ。ぜひとも国際連合には不退転の決意のもと、この戦争終結に ‘人類の英知’ を結集していただきたい。何故なら第2次大戦後、国際連盟が機能不全だった深い反省の上に、世界は悲惨な戦争を繰り返さないために国際連合を作ったのだから。