会報誌(DDKだより)

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2022年06月発行 第337号 DDKだより

人事労務相談:パワーハラスメントの防止措置が事業主の義務になったとは?

Q.本年4月1日から中小企業にもパワハラ防止措置が事業主の義務になったそうですが、具体的にどんな対策を講じればよいのでしょうか。

今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁

A.既に、大企業では2020年から適用となっています。いよいよ中小企業にも対策が義務付けられました。まず、他のハラスメントに比べ遅れたのはパワハラが業務指示や教育指導と、その境界があいまいであったためです。今回、法律で、職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる[1]優越的な関係を背景とした言動、[2]業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので、[3]労働者の就業環境が害されるものであること、以上のすべての要素を満たすものと定義されました。具体的に優越的関係とは、当該労働者が抵抗又は拒絶できないような上司や同僚による言動を指しています。また、業務上の必要かつ相当な範囲を超えるとは、社会常識に照らし、その言動が業務上必要性もなく、相当でないもの。例えば仕事ができない労働者に「お前なんか死んでしまえ」等の人格否定。次に、労働者の就業環境を害されるとは、当該言動により、精神的、肉体的に苦痛を与えられ就業環境が不快なものとなって就業上、看過できない程度の支障が生じること。感じ方は平均的労働者ならどう感じるかが基準になります。
 [1]、[2]、[3]のすべてを満たす場合がパワハラと判定されますが、個別の事案については、形式的ではなく、当該事案における様々な要素(言動の目的、経緯、業務内容、言動の頻度、労働者の心身の状況等)を総合的に考慮して判断することが必要です。
 そのため、本年4月から事業主は防止のために次のような措置を講ずることが義務付けされています。努力義務ではなく義務ですので、法的に実施しなければなりません。要約すると下記のような措置が義務づけられています。
(1)会社の方針等の明確化及びその周知・啓発
 例えば、チラシや掲示等により、パワハラの内容・パワハラ禁止の会社の方針を明確にし、社員に周知徹底すること等。
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
 相談窓口を予め設定し、その担当者が状況に応じて対応できるように研修を行っておくこと等。
(3)事後の迅速かつ適切な対応
 事実関係を迅速かつ正確に把握し、被害者に対する適正措置(配転等)や行為者にたいする適性措置(懲戒等処分)をとること。
(4)その他併せて講ずべき措置
 被害者及び行為者等のプライバシー保護に留意し、被害者が相談したことによる解雇や不利益取り扱い等をしてはならないこと。
 以上の措置を講じない場合、罰則は科されてませんが、訴訟に発展すれば使用者責任(民法715条)や不法行為責任(民法709条)を問われ、慰謝料等損害賠償責任が発生する可能性があります。
 実際、社内に起きている事実を早急に把握し、大事に至らない対応が求められています。