会報誌(DDKだより)
DDK Newsletter
2023年02月発行 第345号 DDKだより
人事労務相談:二重処罰になりますか?
Q.当社の制裁規定では、最も重い懲戒解雇の場合、社員の行為が懲戒処分に該当するかそのおそれのある場合、社員に対し処分が決定されるまでの間、自宅待機を命じることができます。問題はないでしょうか。今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁
A.会社は、職場の内外で社員がルール違反を行った場合、職場秩序維持の観点から一定の制裁処分を行うことができます。戦前は使用者が一方的独断的に制裁を実施していた経験から、制裁は必ずその種類や程度を就業規則で定められなければならないことになっています(労基法第89条)。程度に応じて、制裁の種類は、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇等がありますが、其々の制裁は客観的に合理的理由がなく社会通念上相当と認められるものでなくてはなりません。その程度を超えれば権利濫用として無効です(労契法第15条)。例えば、就業規則上は別々の制裁にもかかわらず、1個の懲戒行為に対し減給をした上で、後日出勤停止を行うような場合はやはり権利の濫用になります。憲法上も、同じ事由で二重に処罰されることはないとの原則があります(憲法第39条)。
質問の懲戒解雇の前置措置としての自宅待機命令(処分決定までの調査期間として出勤停止させること)自体はよくあることです。ただ一旦出勤停止の制裁処分をした上で、懲戒解雇することは1 個の懲戒行為に対する二重処罰に該当するのではという問題があります。判例は、原則、懲戒解雇が有効な以上、前置措置の出勤停止も一応瑕疵なきものとし、欠勤の扱いもやむを得ないとしています。他に、懲戒処分未確定の段階でも、自宅待機させるには、当該社員を暫定的にせよ業務から排除することを必要とするに足りる合理的、客観的理由が必要とする判例もあります。
結局、懲戒解雇の前置措置としての出勤停止は、懲戒解雇が有効に成立しないような場合には労基法第26条にいう使用者の責に帰すべき事由によって社員を休業させたものと認められます。その場合、使用者は社員に対して就業禁止を命じた日以降同条による休業手当を支払うことになります(令和3年版「労働基準法」厚労省労働基準局編参照)。
後日、社員と二重処罰で争いのないよう対処するならば、就業規則上は、懲戒解雇の前置措置としての自宅待機は、明確に、制裁としての出勤停止ではなく最終処分が決定されるまでの会社による業務命令としての出勤停止と規定することをおすすめします。この場合、賃金は最低でも平均賃金の6割以上支払うことになります。