会報誌(DDKだより)

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2023年03月発行 第346号 DDKだより

巻頭:時代の転換期を生かす経営


河原 八洋

 「決済よりも相談」「本社よりも地域」「会議室より現場」「肩書では無く役割」「説得では無く共感」「これらの考えを基にして、皆さんと一緒に挑戦して行きましょう」と、年頭に社員へ向け呼び掛けていたトヨタ自動車の豊田章男社長が、1月28日突然社長交代を発表された。まだ66歳である。会見では「私は古い人間」と、次期社長佐藤恒治(53歳)への承継理由を話された。
 ガソリン、からハイブリッド時代を先導し、自分も『モリゾウ』名で、24時間耐久レースに出場するくらいの自動車好きで、トヨタを世界一にして来た豊田社長には、次世代の電気自動車は、動く大型家電分野の競争開発と思われ、自分がトップでは障害に成ると考えられたに違いない。 
 2009年リーマンショック後の6月社長に就任。早々の10年2月、リコール問題で揺れる米国議会公聴会に呼び出され、4時間に渡る議員の質問に応え終えて当地の工場に戻ると、工場の従業員や販売店の方々が大きな拍手と声援で出迎えた。その時、章男社長には胸に迫るものが有り、涙したことを私は覚えている。この労使の一体感ある日本的経営は万国共通だと感動したものだ。
 だが、時が経つにつれこの日本的経営のほころびがあちこちに見られる様に成ってきた。「江上剛」さんのレポートによると米ギャラップ社の調査で、自分の仕事に熱意を持って働いている社員の割合は米国で35%、ドイツで16%、日本は5%と、年々下がって来ているという。日本生産性本部の集計では、日本の1時間当たりの労働生産性は47.9ドルと、米国77ドルに対し62%にとどまり、G7国の最下位だという。にわかには信じ難い数字だが、半導体製造だけを見ても、80年代、日本の半導体出荷量は世界で50%のトップ、米国は25%、アジア諸国で3%だったのが、一昨年の集計では、日本が10%、米国50%、アジア諸国で25%と大きく逆転されている。
 これは途中経過で、今後の対応でまた大きく変わってくると思うが、トヨタの社長交代はまさに、時代の大きな変化を先読みした結果だと思う。
 私たち中小企業については「労働生産性が低い」と、よく指摘を受けることがあるが、3年間のコロナ禍で自社の経営の「強み」「弱み」を自覚された方も多かった事と思います。この学びを無駄にせず、今後の改善に生かしていければ、一歩前に進めると思います。