会報誌(DDKだより)

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2024年06月発行 第361号 DDKだより

巻頭:故きを温ねて 新しきを知る

青木 正

 3年前、後進に会社代表を譲るまでのおよそ25年間、毎月約10日間のアジア出張に加え、年6回欧州出張していた私は、いつも年間行動計画を海外出張中心に組んでいたので、冠婚葬祭以外の国内旅行とは ほぼ無縁でした。
 ところが学生時代の私はというとそれとは真逆で、井上光貞著「日本国家の起源」を読んでから日本古代史が大好きになり、苦手な理数系の授業中は先生に隠れて歴史書籍を読み、歴代天皇を時代考証や系図で学び、大学時代は歴史観光研究サークルに身を置いておりました。
 近年ようやく私的時間に余裕ができたので、歴史的建造物探訪や古美術鑑賞がとても楽しく思えます。7年前に伊勢神宮外宮内宮に御神楽奉納祈願、みごと心願成就したので、昨年御礼参りで再度の御神楽奉納。荘厳な雅楽奏のなか古式ゆかしい装束で舞う神事に心が洗われました。五穀豊穣祈願の外宮に対し、内宮は天皇家を祀った宮で、うのさららのひめみこ(持統天皇)時代に「式年遷宮」が確立されたとのこと。日本国の礎を築かれた天皇三代(天武・持統・文武)の中でも、持統天皇は特にリーダーシップに優れ、聡明かつ人望もひときわ厚く、何より祖父、祖母(重祚)、父、異母弟、叔父=夫が歴代天皇という、臣下を従わせるにたる申し分のない血統を持ち、日本史上8人10代の女性天皇の中で燦然と光輝くお方。春過ぎて 夏きにけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山 という有名な和歌の作者です。
 出雲大社 遷宮記念祭 おにわふみ にも伺いました。これは年1回だけ八足門内に一般人が入場できる特別な日、荘厳なおおやしろ内を神官のご案内で巡れる貴重な1日です。そして念願だった足立美術館、21年連続日本一庭園と評判のお庭、所蔵の横山大観 技法 ‘朦朧体’ を含む120点にわたる大観作品数は圧巻。
 青山表参道の根津美術館も好きで隔月に足を運び、特に4・5月の特別展 尾形光琳筆 国宝 燕子花図屏風、侘び寂び庭園池の燕子花、茶室 披錦斎でいただく ’おうす’ は一期一会のえにし、まさに都会の喧騒の中に佇む静寂にして瀟洒な日本庭園は誠にもって風流韻事そのもの。
 「故きを温ねて新しきを知る」 
 悠久のいにしえを偲ぶ時、古き時代の息吹に臨むと心穏やかになれます。時空を超えた美しいもの、日本が誇る「普遍の美」は、いつの世も 私たちに「心のゆたかさ」を導き、社会の喧騒の中で日々思い悩む現代人に必ずや新たな「洞察」を与えてくれることでしょう。