会報誌(DDKだより)

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2024年08月発行 第363号 DDKだより

巻頭:よりよく豊かに生きてゆくこと

齊藤 隆

 私の家系は4代続いて、「男はつらいよ」の寅さんで知られている東京の葛飾区柴又に住んでいます。子どもの足でも10分とかからない距離のところに親戚が3軒あり、子どもの頃はよくその親戚の家に行って、従兄弟同士、兄妹のように遊んだものです。ことあるごとに親戚同士や近所の人が集まり助け合いながら暮らしている姿を、子どもながらに見ていました。私の子ども時代は、そんな親戚同士の繋がりの中で暮らしていました。
 血縁や地縁での集団で助け合って生きていく人と人との繋がり方は、特に旧来的な農村等の地域では、好むと好まざるとに関わらず、生きるための術としてあったのでしょう。柴又も戦後の頃までは、田畑の広がる農村地帯でした。
 しかし人の繋がり方は、社会保障制度などが人々の暮らしを一定保障するように拡充され、また消費活動が拡がってくると、そんな助け合いがなくてもとりあえずは生きていくことが出来るようになってきました。結果的にはその必要性は少なくなっていき、繋がりの希薄化が進んでいきました。
 家族・世帯における人の繋がり方も、やはり昔とは様子が違うようです。
 ある統計では、1990年くらいから未婚率が増えてきて、近年では単身世帯が全世帯の3割を超えているそうです。結婚願望があるのかないのかは人それぞれとは思いますが、男女が出会い、仕事や楽しみを共有する中で相手を受け入れ、互いの関係を深めていく、そんな機会が持ちにくくなっているのでしょうか。今の多くの若者たちは、マッチングアプリで結婚相手を見つけると聞いたときには驚きました。
 もっとも、若者以外の世代の単身世帯もあるので、若者の問題だけではなさそうなのですが-。
 社会が発展するにつれ、様々な社会保障制度等ができ、集団や組織にとらわれない個を重視した生き方が広がると、今度はどんな世代でも起こりうる「孤立化」が大きな社会問題になっています。よりよく豊かに生きてゆくための人と人との繋がりやコミュニティーが、今後ますます大切になってきていると感じます。
 コロナ禍の期間は、リアルでの人との繋がりやコミュニティーは大きな打撃を受けましたが、そんな時を経たからこそ、その大切さがまたあらためて身にしみて感じられる昨今です。