会報誌(DDKだより)
DDK Newsletter
2025年05月発行 第372号 DDKだより
人事労務相談:降格に伴う給与の引き下げ
Q.当社では、人事考課による降格(職能資格等級制度における資格や等級の引き下げ)がある場合、給与が下がります。問題はありませんか。今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁
A. 法律は給与が下がる場合、懲戒処分の1つとして減給の制裁を認めています。本来、支払わなくてはならない給与を制裁として一部支払わなくてよしとする制度です。制裁が恣意的に行われると給与の全額払いの原則に反するので金額が制限されています。上限は、1回の事案につき、平均賃金の1日分の半額以下、しかも月給の10分の1以下です(労基法第91条)。
ご質問のように、人事考課の結果、就業規則あるいは人事考課規定に基づき、降格として社員の資格や等級を下げると、給与が下がることがあります。この減給は制裁ではなく、減額につき制限はありません。ほぼ同義に使われている降職(役職を解くこと)の措置もあります。降職は、人事考課の降格と同じように使われることがありますが、役職者として相応しいかの経営判断であり、社会通念上恣意的でなければ人事上の裁量権の範囲として肯定されています。同様に減額の制限はありません。
本稿では、降格は職能資格制度における資格や等級の引き下げとしてご説明します。
ご質問のように、職能資格制度を導入している場合、例えば、管理職の資格として下位から副参事、参事、参与の場合、ライン上の対応役職は課長、次長、部長等になります。役職は、数に限りがあり副参事に到達した人がすべて課長になるのではなく、昇格(一般には昇格により基本給の特別昇給あり)と昇進(役職手当がつく)は分離されるように運用されます。
職能資格制度では、副参事の資格を持つ課長でないX氏が人事考課において降格(資格や等級の引き下げ)されても、副参事まで高めた基本的能力は下がらないと言われています(楠田丘「職能資格制度」p219、産業労働調査所)。しかし、就業規則や人事考課規定に、資格や等級が下がる降格が明記されることがあります。降格が、高めた基本給をも引き下げる場合は、重要な労働契約内容の変更を伴うものであり、根拠が必要です。降格に伴い基本給の減額が明記されていても、本人が知らず周知不徹底なら、不利益変更の可能性があります(労契法第3条第5項、第7条)。
いずれにしても、給与は社員にとり最大の労働条件です。人事考課の結果により引き下げが行われるとしても収入の急激な低下をもたらさないよう調整手当等を導入し、緩和措置をとることが必要でしょう。