会報誌(DDKだより)
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2025年09月発行 第376号 DDKだより
巻頭:関税問題で明らかになった、消費税の本当の姿
齋藤 正広
先の日米交渉で両国間の相互関税は15%で合意されました。一時的に27.5%もの関税が課されていた自動車も15%で決着し、胸をなでおろした関係者の方もいることでしょう。
しかし、なぜトランプ大統領はあれほどまでに関税にこだわるのか。彼がSNSで発信した内容を読み解くと、その根底には日本や欧州が導入している「付加価値税」への強い不満があることが浮かび上がってきます。
彼は「付加価値税を導入している国は、実質的に関税を課しているのと同じだ」と主張し、これを相互関税の正当な理由だとしました。(日本の消費税も付加価値税と同じ税制度です。)
そもそも消費税とはどのような税なのか。事業者が納める消費税額は、「売上 × 10% - 仕入・経費 × 10% 」という計算式で算出されます。この式は「(売上 - 仕入・経費) × 10%」 と書き換えられます。経費には人件費が含まれません。つまり、消費税の本質は、事業者が生み出した「付加価値(利益+人件費など)」に対して課される税金なのです。
当然、税率が上がれば事業者の税負担は増えます。しかし、その分を単純に価格へ転嫁すれば、売上が減少する恐れがあります。結果として、立場の弱い中小企業にその「しわ寄せ」が起こりやすくなります。
本題に戻りましょう。この付加価値税の仕組みが、国境を越える貿易において、米国が「不公平だ」と主張する状況を生み出しています。
まず、輸出には消費税がかかりません(輸出免税)。例えば、日本国内で税込220万円で販売している自動車を米国へ輸出する場合、200万円で販売できます。さらに、製造にかかった仕入れや経費の消費税は、他の国内の販売に係る消費税から控除でき、控除の方が多ければ還付されます。つまり、輸出企業は消費税を負担しないで販売できるため価格競争力で優位に立てるわけです。
一方で、米国のメーカーが米国内で200万円で販売している自動車を日本に輸出する場合、日本の消費税が課されるため、同じ利益を確保するには、220万円で販売する必要があります。
これを米国側から見れば、「日本の製品は消費税分だけ安く入ってくるのに、自国の製品は日本で消費税を上乗せして売らなければならない。これは不公平だ」という論理が成り立ちます。
このように考えると、米国の関税政策は必ずしも理不尽なものではなく、自国産業を守るための対抗策であることが分かります。この問題を解決するためには、米国が付加価値税を導入するほかありませんが、当の米国は付加価値税を法人税と同じ性格の税であると認識していますので、その可能性はないでしょう。この税制に対するスタンスの違いが、問題の根深さを示しているのかもしれません。