会報誌(DDKだより)
DDK Newsletter
2025年09月発行 第376号 DDKだより
人事労務相談:病歴を確認しなかった社員が欠勤
Q.採用時、履歴書等に記載がなく、面談で病歴を質問しませんでした。試用期間中に精神疾患を発病し、現在欠勤しています。質問しなかった当社に落ち度はありますが、試用期間中に発症し、完治する見込みもありません。当社には、試用期間中の休職制度はなく、解雇してもよろしいでしょうか。どうぞ、ご教示ください。今月の相談員
経営労務コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁
A. 中途採用の場合、会社が求めている業務ができるかどうかで判定します。そのため、業務に必要な範囲で病歴や健康状態を確認することは認められます。ただし、個人情報保護法の病歴は要配慮の個人情報であり、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないよう取り扱う配慮が必要です。面接で質問する際は、業務上必要なことであることを通知し、本人から事前の同意を得ていること。貴社はこの手続を踏んでいないので、病歴を聞かなかった落ち度はあります。また、会社に病歴を告知することが本人にとって酷と判断される場合もありますから、告知しないからと言って全面的に社員に非があるとも言えません。(東京地裁判平成20.4.25)
病歴等経歴を詐称すると、会社と社員との信頼関係を覆すだけでなく、配置される業務への労働力評価を誤らせ、業務に支障が生じ、損失が発生する場合があります。
懲戒権の発動(懲戒解雇等)は、それが重要な経歴詐称であり、詐称行為により賃金や職種、地位等の労働条件の体系を著しく乱し、会社の健全な運営を阻害する等会社秩序に対し具体的な損害ないし侵害を及ぼした場合に、その程度に応じて許されます。(経歴詐称、労働基準法上P314~315厚労省労働基準局編)
事案で、業務は、毎日、自動車で顧客を訪問し商談する営業職。現況では、営業業務を継続することが難しい。試用期間中に発病し、欠勤しているので会社に業務上の損害を与えています。他に配転可能性がなく、雇い続ければ経営を圧迫します。したがって病歴を知っていれば採用しなかったと言える重要な詐称にあたる可能性があります。
行政解釈の重要な経歴詐称に該当し、懲戒権の発動ができそうです。試用期間中の本採用取り消しや懲戒事由に該当するのみで簡単に解雇するのは得策ではありません。精神疾患の場合、症状が安定すれば仕事への影響が薄いと判定されることもあるからです。
できれば解雇は避け、話し合いによる解決が望ましい。本人は病歴を告知したなら雇ってもらえないとの負い目もあり、本採用ではなく試用期間中であることも知っています。退職勧奨を受け入れる余地はあります。退職届を出してもらう方法を模索することです。