会報誌(DDKだより)

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2026年03月発行 第382号 DDKだより

巻頭:迷走する税制と「応能負担」の行方


齋藤 正広

 昨今の税制の複雑さは、もはや「迷宮」と呼ぶにふさわしい状況です。昨年の年末調整では、顧問先の皆様から悲鳴のような問い合わせが相次ぎました。度重なる改正で制度が複雑怪奇になり、私たち専門家ですら即答をためらうほどです。税制とは本来、簡素で公平であるべきですが、現実はその理想から遠く離れてしまったようです。
 さらに、令和8年度の税制改正大綱では、所得税の基礎控除を中間層まで増額する改正が盛り込まれました。基礎控除とは、人が生活するために不可欠な「最低限の生活費」には課税しないという、生存権に関わる重要な要素です。本来であれば、所得の多寡にかかわらず同額であるべきものでしょう。担税力(税を負担する力)のある方に応分の負担を求める「応能負担」の原則は、控除額ではなく、累進税率の適正化によって実現するのが筋ではないでしょうか。
 公平性の観点からは、1億円を超えると逆に税負担率が下がるという「1億円の壁」の問題も避けて通れません。今回の改正で、高所得者への負担増が盛り込まれましたが、対象となるのは全国でも2,000人程度と想定されており、その効果は限定的と言わざるを得ません。逆転現象の主因は、株式や不動産などの譲渡益や配当所得が分離課税とされている点にあります。汗水流して稼ぐ給与よりも、資産が生む利益のほうが税率が低い。ここにメスを入れない限り、真の公平性が保たれているとは言い難いでしょう。
 また、税金だけではなく、社会保険制度も大きな課題を抱えています。所得にかかわらず一定率で徴収されるため、低所得者ほど負担が重くなる「逆進性」が生じています。一方で、会社にとっては「労使折半」というルールにより、雇用を維持するだけで重い固定費がのしかかります。税と社会保険、この二つの負担をどう最適化するか、抜本的な議論が必要です。
 さらに、先の衆院選で高市政権は、食品への消費税を2年間課さないという公約を掲げました。物やサービスの価格に対して課される消費税は、物価高対策の切り札として最も即効性があります。財源として租税特別措置の縮小が挙げられていますが、大企業を中心とした特定の業界を優遇するこの制度がどこまで見直されるのか、今後の国会審議に注目が集まります。
 さて、選挙結果がどうあれ、若者を含め多くの国民が政治に関心を持ち始めたことは、この国にとって希望の光です。民主主義を維持するために、私たちが税を負担し国を支えることは当然の責務です。しかし、その負担の在り方は、各々の能力に応じた公正なものであるべきです。これほどまでに税のあり方が問われる時代は過去になかったかもしれません。この混乱を奇貨として、社会保険も含めた「負担の適正化」について国民的な議論が深まり、より公正な制度へと脱皮する契機となることを願ってやみません。