専務理事 石田 仁 |
『石田さん、私、今度、馘になりました』とS社長がつぶやいた。 S社長とは一年前、日経ベンチャー誌を通じて知りあった。 一部上場の化学会社の役員から子会社社長へ転出。 生来の負けん気から業界有数の高収益会社に発展させ、 その功績は親会社も認めていた。 4年前、子会社はぬるま湯体質にどっぷり浸かっていた。 彼の改革が始まった。毎週欠かさず発行される「社長メッセージ」。 社長の一週間が日記風に綴られた社員への熱いメッセージである。 年度毎に製本され社員並びに親会社にも配布される。 毎週木曜日には定例の朝礼が開かれ、メッセージが読まれ、 全国の支店からは誰かが交替で本社に集う。情報の交流がにぎやかに行われた。 彼の辞書には長期は存在しない。 どんな計画も4か月以内でなければゴーサインが出ない。 スピードそしてチャレンジが真骨頂。今、まさにぬるま湯体質が一掃され、 社内が覚醒し始めた矢先の更迭であった。 企業の論理は非情。腰掛け社長は欲しいが、本物の経営のプロは要らない。 親会社の人事の硬直を招くからだ。 有能なS社長もあっけなく幕を閉じざるを得なかった。 大企業では当然のことだと首肯することは簡単である。 しかし、新しい環境変化の中で経営者と組織、 個人と組織の関係が見直されてもいいはずだ。 組織と個人を直接的に統合する従来の組織人モデルは 個人の業績の伸長や貢献が組織にがっちり受けとめられ、 その枠の中で個人の欲求や名誉が充たされる。 だが、有能なプロフェッショナルな経営者や個人は 組織に直接統合されるよりも、仕事を通じて、自己の高次な欲求を充たし、 間接的に組織に貢献することに働き甲斐を見い出すに違いない。 いつまでも従来型の組織人モデルに固執していては、 日本型経営は早晩行き詰まる。 「石田さん、今度、××を始めるよ」というS社長の元気な声を 早く聞きたいものだ。
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