廃業率の悪化におもう

  参与  田口 良一       
     国民金融公庫出身
     祝経営研究所次長
     主な論文
     「商工ローンの膨張と銀行の責任」
     (『世界』2000年1月号)
 

 


 日本の廃業率が極端に悪化しています。
 最近総務庁統計局が発表した「事業所・企業統計調査」によると、事業所の廃業率(年率)が5.9%にはね上がりました。他方、開業率は4.1%で、その差1.8%が純減です。5.9%は約32万件の実数となります。
 米国の場合、開業率は13.8%、廃業率は12.6%で、その差は1.2%の純増であり、この数字が米国経済の活力の象徴だとよくいわれます。
 ただし、日米ともこのデータは科学的には正確でないことに注意する必要があります。日本の場合、事業所数ですから、リストラによる支所・工場の閉鎖が廃業数にカウントされています。
 この留保をおいて数字を眺めても、今回発表の上昇(悪化)の意味は深刻といわなければなりません。日本は1991年以降廃業率が開業率を上まわり、中小企業の減少傾向が続いているのですが、5.9%の廃業率はこの調査開始以来未曾有の悪さです。倒産情報は年間2万件ですから、圧倒的に非倒産廃業なのです。
 都銀から信組まで網羅した金融機関の貸付残高の減少傾向が強まり、特に中小企業の設備資金需要の冷え込みは長期化しています。金融機関の「貸し渋り」だけが原因とはいい難い様相といわなければなりません。
 中小企業の深部で深刻な事態が進行している心配があります。長期不況に耐え抜いてきた健全経営の中小企業の一斉死が進行しているのではないか、との懸念です。
 一斉死を上まわる開業率の上昇が、米国なみに日本でも可能となる条件は考えられません。新規開業、ベンチャー企業礼賛政策は、アメリカ型経済文化の引き写しにすぎないのではないでしょうか。

(別図)開廃業率の推移(年率換算、民営、非農林漁業)
資料:総務庁「事業所・企業統計調査」